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20世紀に芸術歌曲を復権させた立役者たちのかけがえのないモニュメント。
ESOTERICによる世界初のSuper Audio CD ハイブリッド化が実現。
■20世紀における芸術歌曲復権の貢献者の記録
ドイツ・リートを中心とするピアノ伴奏による芸術歌曲は言葉と音楽、詩と旋律、文学と和声という異なるジャンルを高度に融合させた表現形式で、19世紀にヨーロッパ各地で高度に進化しました。
19世紀末にレコード録音が実用化されると、録音システムと声との親和性が高かったこともあって歌曲のレコードが数多く作られるようになりました。
歌曲はすでにSP時代から広範に録音され世界各地で幅広く聴かれていましたが、真の意味で歌曲を普及させたのは長時間収録が可能になった第2次大戦後のLPレコードの登場以降のことでした。
この2枚組はそうした芸術歌曲の20世紀における普及を支えた4人のアーティストを記録したアルバムです。
■主観と客観のはざまで揺れ動く解釈
1951年、ムーアとの共演でEMIに録音したシューベルト「美しき水車屋の娘」を皮切りに、フィッシャー=ディースカウの旺盛な録音活動が開始されますが、「冬の旅」が最初に録音されたのは1955年。
その後ステレオ~CD時代を通じてこの歌曲集で6回の再録音を重ね、年齢に伴う声の変化、解釈の変遷と芸術の深まりを音として記録していきます。
「冬の旅」は恋に破れた主人公が放浪の旅に出てやがて狂気の裡に沈んでいくという筋書きがあるため、歌手も主人公の主観的な視点とそれをストーリーテラーとして見つめる客観的な視点という複眼的な解釈が要求されます。
フィッシャー=ディースカウの複数ある録音は、その2つの視点の間を揺れ動き、どちらの比重が大きくなるかを生々しく刻んでいます。
また1960年代半ばまでの低域の豊かな丸みのある美声を惜しげもなく使い尽くす時代から、声を抑制しつつ微細な表現を増していく1970年代の円熟期、言葉そのものに深い諦念をにじませた無限のニュアンスを込めるようになる晩年まで、声と解釈の変遷が音として残されることになりました。
今回ハイブリッド化される1962年盤はフィッシャー=ディースカウにとって2度目の録音かつ初のステレオ録音。
ちょうど純粋な声の威力が頂点を迎えた時期であり、その圧倒的な声を自由自在に駆使できる表現意欲の発露を心行くまで味わうことができます。
■演奏と聴衆の反応とを生々しく記録したライヴ
この2つのアルバムは、全く異なるコンセプトで録音されたもので、しかもそれぞれの特徴が実に明確に収録されています。
ジェラルド・ムーアの「フェアウェル・コンサート」は、第2次大戦後の1951年に開場し当時ロンドンを代表する演奏会場だったロイヤル・フェスティヴァル・ホール(RFH)でのライヴ収録で、演奏前後の拍手もたっぷりと収められ、ブラヴォーや笑いなど2,900席を埋めた聴衆の反応も含めたコンサートの臨場感を余すところなく捉えたサウンド・ドキュメントです。
RFHは残響が少なめのホールですが、ここではステージ上の歌手(独唱のみならず、二重唱と三重唱)とピアノが1階後方もしくは2階席に座って聴いているかのような絶妙な距離感で収録されています。
ドキュメント的な録音とはいえ、距離を置きながらもそれぞれの歌手の声や表現、歌にぴったりと寄り添っていくピアノの表情は、音声のみでスピーカーを通しても実に明晰に聴き手の耳に届くように配慮されおり、まるで3人の歌手の背格好の差異(小柄なロス・アンヘルスに対して長身のフィッシャー=ディースカウ)や立ち位置(三重唱の場合は、左からロス・アンヘレス、シュヴァルツコップ、フィッシャー=ディースカウが並びました)までが聴感上で映像化されるかのようです。
録音は1960年代から70年代にかけてEMIのクラシック制作の多くを手掛けたインド出身のスヴィ・ラジ・グラッブのプロデュース、EMIのステレオ時代の名エンジニア、クリストファー・パーカーによるエンジニアリングで収録されました。
豪華な共演盤ゆえにCD初期にすでに抜粋盤としてCD化されていましたが、LP発売時の全曲がCD化されたのは2003年の海外盤GREAT RECORDINGS OF THE CENTURYシリーズにおけるartリマスター盤が最初でした。
今回はそれ以来22年ぶりの新規リマスターかつ初のSuper Audio CDハイブリッド化で、しかも日本における全曲CD化は今回が初めてとなります。
■明晰なドイツ語のディクションと有り余るほどの声の威力
一方の「冬の旅」は、ベルリンの郊外ツェーレンドルフ(フィッシャー=ディースカウの自宅があった地区)にあるプロテスタント福音派の教区公民館(ゲマインデハウス)における2日間のセッション録音で収録されたもので、当時の趣向を反映して(モノラル時代ほどでは極端ではないにしても)声楽がピアノよりもやや大きめのバランスで捉えられています。
歌手の声が中央よりもやや右側に定位しているのは歌手がピアノの側面のアーチの中に入ることが多い実際のリート演奏での立ち位置を反映させたものと思われます。
この公民館の1階が教会としてもつかわれるアーチ状の天井の講堂になっていて、モノラル時代の1953年から1980年代まで主にドイツ・エレクトローラによる録音セッションで使われていました。
この録音は残響感があまり取り入れられていないため、フィッシャー=ディースカウの明晰なディクションが手に取るような鮮やかさで収録されていて、言葉の一つ一つ、詩の1行1行に盛り込まれた精細なニュアンスがそのままの解像度で再現されます。
ディースカウの1960年代前半までの低声域に伸びのあるロブストな声質が部屋いっぱいに広がる音作りは、シューベルトが描き出すこの歌曲集の絶望感を聴き手に突きつけるかのようです。
アナログ時代の定番だったためCD化も1985年と早く、2001年にはartシリーズでもリマスターされていますが、Super Audio CDハイブリッド化は今回が初めてです。
[録音]
■フェアウェル・コンサート1967年2月20日、ロンドン、ロイヤル・フェスティヴァル・ホールでのライヴ・レコーディング
■シューベルト:冬の旅1962年11月16日&17日、ベルリン、ツェーレンドルフ、福音派教区公民館(ゲマインデハウス)
[Super Audio CDプロデューサー] 大間知基彰(エソテリック・マスタリング・センター)
[Super Audio CDアソシエイト・プロデューサー] 吉田穣(エソテリック・マスタリング・センター)
[Super Audio CDリマスタリング・エンジニア] 東野真哉(エソテリック・マスタリング・センター)
[Super Audio CDリマスター] 2025年3月 エソテリック・オーディオルーム、「Esoteric Mastering」システム
[解説] 浅里公三 國土潤一
[企画・販売] ティアック株式会社
[企画・協力] 東京電化株式会社
【収録曲】
DISC.1
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト:
1.別れ K. 436
2.もはや誰も見出せず K. 549
フランツ・シューベルト:
3.独りずまい D. 800
4.夜のすみれ D. 752
5.別れ(《白鳥の歌》より)D. 957 No. 7
6.夕映えに D. 799
ジョアッキーノ・ロッシーニ:
7.ヴェネツィアのゴンドラ競技
8.ペスカ
9.二匹の猫の愉快な歌
ヨハネス・ブラームス:
10.サッフォー賛歌 Op. 94 No. 4
11.恋人を尋ねて Op. 48 No. 1
12.甲斐なきセレナーデ Op. 84 No. 4
ロベルト・シューマン:
13.夜に Op. 74 No. 4
14.あなたを想って Op. 78 No. 3
15.踊りの歌 Op. 78 No. 1
16.彼と彼女 Op. 78 No. 2
フーゴー・ヴォルフ:
17.君よ知るや南の国
18.眠れる者の太陽
19.見棄てられた娘
20.ジプシーの娘
フェリックス・メンデルスゾーン:
21.恋人よ打ちあけてくれ Op. 63 No. 1
22.挨拶 Op. 63 No. 3
23.「 ルイ・ブラス」の歌 Op. 77 No. 3
24.夕べの歌
25.舟路