[ 2024年 10月 22日付 ]
こんにちは、ハイエンドオーディオ担当 "ichinose" です。
今回は、ネルソン・パスのハンドメイド・ブランド「FirstWatt(ファーストワット)」より、SITシリーズ第4弾「SIT-4」が発売されましたのでご紹介いたします。
◆FirstWatt(ファーストワット)ブランドについて
FirstWatt(ファーストワット)は、ネルソン・パス(Nelson Pass)のハンドメイド・ブランドです。
FirstWattは能率の高い高品質スピーカーのための非常にシンプルで高品質な低出力オーディオアンプの開発を主旨としています。
これらのアンプは、Nelson Passのプライベートブランドで、ハンドメイドのため、非常に限られた数量の製作となっております。
増幅コンポーネントとしてのオーディオアンプはどうあるべきか、その命題について実験的に制作する製品がFirstWattブランドです。
自然界におけるシングルエンド動作、理想的なアンプ増幅動作を達成するために三極真空管シングルアンプの音質の魅力を半導体アンプで、それ以上に実現しようと試みられています。
商業的な懸念に縛られない環境で、斬新なアンプ設計を模索して誕生したブランドといえます。
◆FirstWattの設計理念=ブランド名の由来は「最初の1ワット」
「ファーストワットで最も重要視しているのは最初の1ワットです。」
この点をメインテーマに、1998年に「PASS」のサブブランドとしてFirstWattをスタートし、音質に重点を置いた例を見ない低電力アンプを探求しはじめました。
小型アンプはフィードバックがほとんど発生せず、単純なクラスA回路で、非常に高い品質を達成できる点で高出力の製品と比べて多くの利点があります。
最初のSIT素子による「SIT-1」「SIT-2」パワーアンプ(2012年発売)は、シングル動作/ノンフィードバック/抵抗負荷の組合せによるハイファイアンプとしてその自然感のすばらしさや、サウンドステージの広さ、音響空間の正確性で大きな注目を集めました。
FirstWattアンプは高性能チューブ・アンプと比較されていますが、チューブ自体を模倣するようには設計されていません。
フィードバックがほとんど発生しない単純な回路を持ち、個々のゲインデバイスの性能を特徴としている点で、より優れたチューブ製品の特性をいくつかを併せ持っています。
◆FirstWatt社のSITアンプの歴史
2011年にセミサウス社製(SemiSouth)のカスタムシリコンカーバイト(Sic)トランジスタを使用した最初のSITアンプ「SIT-1」を設計。
「SIT-1」はフィードバックなしでシングルエンド純A級で動作する単一のパワーデバイスを使用して「トライオード」の特性を模倣しつつ、スピーカーに直接必要な電圧と電流で動作し、出力トランスを排除しながらも、10Wの電力を供給しました。
また、より高い効率で同様の性能を提供するステレオアンプ構成の「SIT-2」も登場。
2018年には「SIT-3」を発売。
「SIT-1」「SIT-2」の設計思想と構造を受け継ぎ、SIT出力素子の新たな可能性を追及。回路の心臓部を形成するトランジスタ(SIT出力素子)は、コモンドレイン・モードと呼ばれる「SIT-1」「SIT-2」とは完全に異なったモードで動作。
SIT素子の生産完了のため、在庫が限定的となり、世界200台・国内30台の限定生産となった幻の銘機。
◆『 SIT-4 』に使われているSIT素子ついて
▼SIT素子(Static Induction Transistor):静電誘導型トランジスタについて
西澤潤一東北大学名誉教授によって開発された、国産半導体デバイスです。
「Static Induction Transistor」は静電誘導効果を利用したもので、大電流にも対応でき、消費電力は少なく、チャネル抵抗を極限まで減少させ、低内部抵抗・高速動作・低損失を実現した半導体デバイスで、入力された信号波形に、忠実な増幅を可能とする、非常に特性の優れた特性を誇ります。
▼SIT素子の特徴:作用
・三極真空管特性:奇数次高調波歪が少ない
・等μ特性であり、リニアリティーがよい:電圧増幅歪が少ない
・電圧増幅率が大きい:少電圧駆動
・高周波特性が優れている:利得帯域幅の積が広く、位相歪が少ない
・発生ノイズが少ない:内部発生ノイズが少ない
・出力インピーダンスが低い:良好な出力トランス特性が得られる
・寿命が半永久的:特性の経時変化がない
・熱暴走が生じ難い:破損し難い
SIT素子は結構以前からあり、当初はVFETと呼ばれていました。1980年頃にSONYやYAMAHAからアンプが発売されていたのでお使いだった方もいるかもしれません。(SONY「TA4650」「TA8650」「TA5550」など、YAMAHA「B-1」「B-2」「B-3」など)
これらのアンプは、その優れた音質で高く評価されていました、その功績はVFETの直線性に帰せられたといわれていました。
当時、VFETと呼ばれていたのは、垂直 (横方向ではない) 構造だったためで、その後、垂直 MOSFET (金属酸化物半導体電界効果トランジスタ)が発明され、大いに普及したため、混乱を招くようになり、現在では、これらのオリジナル部品を指す場合を除いて、SIT素子 静電誘導トランジスタと呼ばれています。
◆『 SIT-4 』の回路を簡略化したものです。
これは、フィードバックを使用しないコモンソースモードでSIT(Q2)を使用したシングルエンドのクラスA回路です。
一般的なMosfet "mu follower" 電流源Q3によってバイアスされ、NOS Toshiba 2SK170という最高品質のJFETによって入力がバッファリングされます。
これにより、容易に駆動可能な高入力インピーダンスが実現されます。
十分なゲインがあり、4オームの負荷を扱えます。テストスピーカーは、3.8オームのインピーダンスと86dB/Wの感度を持っていますが、『 SIT-4 』は驚くほど大きな音量で駆動します。
『 SIT-4 』は、Altec、Klipsch、JBL、Lowtherなどの高効率スピーカーを想定して設計されています。
※音楽ソースを女性ボーカルや小編成の管弦楽に限定して、音量をあまり上げないで楽しむ場合は、殆どのスピーかーでお使いいただけます。
◆FirstWattのユーザー・ターゲット
FirstWattというブランドは、商業的には適切でないかもしれないアンプですが、様々なアンプを設計・探究するために存在しています。
FirstWattの製品は奇妙な特性と出力電力定格が25ワット以下なので、汎用性の高いアンプとはいえません。
能率の高いスピーカーをお持ちで、妥当なレベルで聴き、主観的なパフォーマンスに悩まされているなら、おそらく適切な選択といえると思います。
完璧なアンプというものはありませんが、すべてのオーディオファンとその関連機器には特定のニーズがあります。
いずれのニーズにおいても最高のアンプというものがあり、ユーザーの好みや用途に適応すれば、最高の幸せをもたらしてくれるでしょう。
そういった意味では、何とも贅沢な設計ともいえるのではないでしょうか!!
◆担当者より
『 SIT-4 』は、10ワット/チャンネルのアンプで、600ボルト、30アンペア、400ワットのトーキン社製SIT素子「THF51」を使用しています。
「SIT-3」まで使われていた「SemiSouth」社のSIT素子の終了に伴い、純日本製のトーキン社製のSIT素子が採用されています。
このSIT素子はCANタイプですね。以前 国産の某ブランドで、クリーン電源システムに使われていたSIT素子と同じモノでしょうか…。
FirstWatt(ファーストワット)は、パス・ラボラトリーの創設者 ネルソン・パスによるハンドメイド製品のプライベートブランドです。
実効能率の高い高品質のスピーカーのために、非常にシンプルな回路構成のAクラス動作を採用した、低出力オーディオアンプの開発を目指して創立されました。
「増幅コンポーネントとしてのオーディオアンプはどうあるべきか。」その結論は、自然界におけるシングルエンド動作、理想的なアンプの増幅動作を達成するためには、三極真空管シングルアンプの音質が適しているとしたのです。
その魅力を半導体アンプで実現しようと、フィードバックがなく、単純なA級回路とすることで非常に高品位な音質を実現でき、高出力アンプに比べて多くのメリットのあるアンプが完成したのです。
『 SIT-4 』のサウンドは、歪み感のない澄み切った、とにかくフラットでどこにも強調感のないサウンドです。
ボーカルは生音のごとく温かく、柔らかな心地良さで、特に女声ボーカルの艶っぽさ、しっとり感は抜群です。
また、とても10+10Wのパワーとは思えない力強さと立ち上がりの良さも兼ね備えており、特にピアノの滲みの無さは過去に経験のないレベルで、耳障りになりがちな高域にも硬質感が全くなく、全ての帯域で質感や音色、響きなどに統一感のある、過去に例のない珍しいアンプなのです。
ハード指向ではなく、とにかく音楽の奥深さをとことん楽しみたい、超自然なサウンドで、サウンドステージが非常に広く、ナチュラルな響きなど、生の演奏やボーカルが持っている臨場感を自宅で再現したい方におすすめいたします。